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【市民リポート】◆常楽寺∶文化財の保護、そして これを未来につなぐこと◆┅┅┅ 耐久年数30年、茅葺き屋根の葺き替え現場を見学 ┅┅┅

2023.10.03

市民リポーター  清水

【市民リポート】◆常楽寺∶文化財の保護、そして これを未来につなぐこと◆┅┅┅ 耐久年数30年、茅葺き屋根の葺き替え現場を見学 ┅┅┅

別所温泉の常楽寺にみられる様に、厚く優美な茅葺き屋根を扱える技術が先細りしている現実。
「茅葺き工事を受け負える業者も段々と少なくなってしまって長野県では2社ほど、職人は全国でも100人程になってしまった」とお聞きしました。

足場のかかる常楽寺の本堂

 

猛暑日が続く真夏の盛り、常楽寺と上田市教育委員会(生涯学習・文化財課)の主催による茅葺き屋根の『差し茅工事』の現場を見学してきました。
見学に先だって、主催者側からのお話しを頂きます。

 

話∶ 常楽寺代表 松景 崇誓(まつかげ しゅうせい)師
「茅葺き屋根の厚み、切り揃えられたエッジの美しさ! 維持が難しいからトタンに、との声もあったけれど、本来の形を何とか継承していきたい。
その地域の人びとが積み重ねてきた文化を護り繋げて行きたい。文化の対極にあるのが武力ではないかと考えるのです。」

 

話∶ 教育委員会 生涯学習・文化財課長 上原 晶さん
「上田市には305の文化財が存在しており、それらの保存と積極的な公開をすすめています。
文化財の魅力を発信し、これらを未来に継承していきたいと思っています。」

松景師と上原さんのお話しで開会

 

さて、実際に作業が行われている屋根を見学です。
一班8人程、6つのグループに分かれた私たちは両手を空けてヘルメットを着用、班ごと順番に20分程度で作業の様子を間近に見せて頂きました。
職人さんたちが使っている、狭くて急な足場を慎重に上ります。

今回実施されている差し茅工事とは、10年から15年に一度する補修作業のことです。
屋根の素材である茅には苔や、場合によっては木が生えてきたり、または年月の間に雨道が出来たりします。
これによって屋根が内部まで傷まないうちに一部の古くなった茅を取り除き、そこに新しい茅を差し込んでいく作業を行います。
こうしてメンテナンスをすると、茅屋根はおおよそ30年もつのだと教えて頂きました。

苔の生えた部分を補修

 

茅とは主にススキのことで、丈2メートル程度のものを刈取ってきて、長さ、太さを調整したものを束ねて使います。
ヨシを使う場合もありますが、若干割高だとか。
今回、常楽寺の差し茅には、伊那の高遠の山奥で刈り取られたものを用います。

説明をして下さる職人さんが、長い金属の棒を茅屋根に差し込みました。
『コツン』という音は、それが屋根の木肌にあたったということ。
棒を引き抜けば屋根の厚みがわかります。
なんと本堂の茅の厚さは120センチほども!
ちなみに、白川郷の家屋には150センチ程のものもあり、一般家屋は45センチ位が普通なのだそうです。

 

 

かなりの傾斜です

 

毎日35度を超すような猛暑日の連続。
日差しを遮る物が何もない屋根の上で進んで行く作業、それは感覚や経験がものをいう熟練の手さばきです。
自然の素材を用いて造り出される優美な屋根の曲線やシャープに切り落とされた軒下など、茅屋根の図面はどのように書かれているのでしょう。

 

 

本堂より軒下を見上げる。美しい!

 

常楽寺には歴史を伝える文化財が多くありますが、1700年代に建立されたこの茅屋根の本堂も平成9年、上田市の指定文化財になっています。
江戸時代享保年間┅┅、松尾芭蕉やニュートンの少し後の時代です。

『天台宗別格本山常楽寺』は、天長2年(825年)、平安時代前期から続くお寺です。
清少納言や紫式部の時を更に180年ほど遡る時代のこと。
北向観音の本坊であり、本尊は妙観察智弥陀如来、宝冠を頂いた珍しい阿弥陀様。
寺伝には天台宗開祖である最澄の一番弟子、慈覚大師円仁が創建したとあります。

脇に石造六地蔵が並ぶ山道を本堂の裏手へと歩いてみましょう。

 

優しい表情の地蔵さま

 

見上げれば身体が反り返るほどの高さに真っ直ぐ伸びた杉の木立の間に、まるで木漏れ日のスポットライトに浮かび上がるかの様に国の重要文化財『石造多宝塔』(274cm)が建っています。
ここが『北向観音様がお姿を現された場所』、まさに聖地。

 

 北向観音が出現された場所に建つ多宝塔

 

『天長2年(825年)、ここには北向観音が出現した火坑を霊場として木造の宝塔が造営されていたが、後に焼失した』と銘文にあります。
現在の塔はその後、鎌倉時代(1262年)に建てられたもので、青々と苔のむすどっしりとした佇まい。
境内で最も神聖なる場所とされています。

 

御船の松と茅葺き本堂

 

どちらかと言えば「困った時の神様仏様」の私でも、神社仏閣、聖なる場所を訪れると身体の隅々までシンとした空気で満たされる気がします。
森閑として厳かで、しかし来る者を包み込む様な優しい空気。

近づくにつれて御船の松に見え隠れする常楽寺のあの美しい茅屋根が、どうか元来の姿であり続けられますように。

 

 

 

 

 

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