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【市民リポート】寒さ厳しい菅平高原で生み出される、「ホッと」素朴な温かさ溢れる磁器たち…「日常使いの器」に練り込まれた想いと秘話と諸々と。 -酸塊窯 磁器作家渡辺由理子(わたなべ・ゆりこ)さん-

2023.12.08

市民リポーター  酒井 さやか

【市民リポート】寒さ厳しい菅平高原で生み出される、「ホッと」素朴な温かさ溢れる磁器たち…「日常使いの器」に練り込まれた想いと秘話と諸々と。
-酸塊窯 磁器作家渡辺由理子(わたなべ・ゆりこ)さん-

 

みなさん初めまして!新人市民リポーターの酒井です。
普段はメンタルナースとして勤務しつつ、時おり職場広報の写真を撮ったり、部署通信を不定期発行しております。
筆者は生まれも育ちも上田市ですが、自分の知らない魅力を探して発信してみたい…という「表現欲」が出た頃、上田市が市民リポーターを募集していることを知り、10月に無事全6回の養成講座の受講を終えて、いよいよ市民リポーターとしての活動がスタートしました。同期の面々より遅ればせながら記念すべき第一報をお送りします!

今回取材させていただいたのは上田市が誇るスキーの聖地、菅平高原の「酸塊窯」で磁器を制作されている渡辺 由理子(わたなべ・ゆりこ)さん。筆者父と幼馴染であり、筆者自身も渡辺さんの作品を普段から愛用しています。
みなさん、「酸っぱいカタマリの窯」と書いて「さんかいよう」ではありませんよ!「すぐりがま」という工房名です。(ネーミングの由来についてはまた後ほど…)

白地に緑の文字で描かれた看板がお出迎え。

 

 

渡辺さんの工房。可愛らしい建物の中には作品が所狭しと並ぶ。

 

 

渡辺由理子さん プロフィール
1954年 長野県上田市菅平生まれ
1973年 県立上田高等学校卒業。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科入学
1976年 陶磁器コース専攻、加藤達美教授に師事
1978年 同大学卒業後、東京にてヨーロッパ木製玩具店で勤務しながら美学校・立石鐡臣細密画工房にて学ぶ
1980年 菅平にて酸塊窯を開窯
1985〜2020年 東京銀座 陶悦にて三人展
2010年〜 東御市胡桃倶楽部にてくるくるくるみ展を開催

渡辺 由理子(わたなべ・ゆりこ)さん
※現姓は鶴岡(つるおか)。
お孫さんと自宅にて。

 

工房の中に入ると、棚には作品がずら〜りと並んでいます。

 

白地に青の染付で描かれた平皿、小皿、箸置き、カップ、どんぶり、ティーポットなど。
個性豊かな表情を、ついつい一番奥まで見たくなる。

 

工房内で存在感を放つ焼成窯。
プロパンガスを使い、ここで渡辺さんの作品が焼き上げられる。

 

 

工房の中を見せていただいた後、隣のご自宅でお話を伺いました。

− 美大志望のきっかけは?
渡辺さん:高校に入学した時に「絵が好きだから」って美術班に入ったんです。もう勉強そっちのけで絵ばかり描いてましたね。その証拠に数学のテストは8点、化学は2回追試を受けたこともあります(笑)。典型的な文系女子ですね。一つ上の先輩は美大を目指す人が多かった。その縁で武蔵野美術大学の甲田洋二先生に誘われて、デッサン指導を受けたのをきっかけに武蔵野美術大学に進学しました。
− 陶芸を専攻した理由は?
渡辺さん:美術大学って、入学するといろいろな素材を使って一通りの技術を体験するんです。私は織物や染色を志望していたけれど、高校でクラスの9割近くが男子だった私は、女子学生集団に馴染めるはずもなく…うん、そんな理由で諦めました。
そのあとに陶芸の実習があったんです。一週間は陶土をこねて、次の一週間はろくろを使って…「いつまでやらせる?」なんて思いながら土をこねていくうちに、結構面白くなってきて。「自分に合っているかも」って感じで2年生の終わりに焼物のコースを選択しました。
ホントのこと言うと、「他分野と比べて材料費が安いから」というのが決め手になったんですけどね。あ、これは言ってよかったのかな?(笑)
そんな経緯があって陶磁器コースを専攻した渡辺さん。7人の同期生のうち2人とは現在も交流があり、展覧会にも足を運んでくれるそう。

 

インタビュー中に頂いた紅茶のカップ&ソーサーは渡辺さんの作品。
描かれているのは鳥や植物が多いが、モデルは特に決めていないとのこと。
「何に見えるかはその人の感性次第ですね。」と。
同じ鳥でもハトやセキレイを連想する人など様々だそう。

 

− 「酸塊窯」の名前の由来は?
渡辺さん:この辺りに自生していた「スグリ」の実からです。学校の帰り道に道草をしながら食べた、酸っぱいスグリの実が当時の貴重なおやつでした。
可愛らしい実の形と熟す前の緑色がまるでガラス細工のようだったこと、インパクトのある字面とのギャップが気に入って。

− 他に名付けの候補はありましたか?
渡辺さん:もう一つの候補は「なずな窯」だったんですが、意見を聞いた仲間が全員「酸塊窯」を推しまして…。

− 染付に用いられる技法について教えてください。
− 渡辺さん:「呉須(ごす)」というコバルト・マンガン・鉄分などが含まれた青色の顔料で絵を描いています。染付で絵を描けるのが磁器ならではの良さですね。

焼き上げの順番を待つお皿たち。
「絵描きにも漫画家にもなれなかったけど、絵は描きたかったんです」と話す、渡辺さんならではの芸術や生き方の着地点のよう。

 

− 様々な作品がありますが、オーダーは可能でしょうか?

− 渡辺さん:「このお皿にあの図柄を…」というような、いつも描いているモチーフ程度であれば…。あとは要相談、という感じですかね。
今まで一番大変だったのは作成した手洗いボウルに「ペットのリクガメ」を描いて欲しいと言われた時!ただの亀じゃダメ。リアルに描くためにまず図鑑で「リクガメ」を調べることから始まりましたから(笑)

↑「フクロウが好きな母に」とお客さんがオーダーした2枚の小皿。
ふっくらとした愛らしい姿に、思わずこちらもほっこりする。

 

− 制作・展示を通して感じたことはありますか?

− 渡辺さん:菅平で開窯し駆け出しだったころ、上田市のLIVIN(当時)の催事で出品したり、真田の作家さんと共同で出品したこともあります。ちょうど「日々の暮らしの中にこそ良いものを取り入れて生活する」「自分のしたい仕事をする」という価値観のムーブメントが起こった頃ですかね。実用的なものに「美」を見出す農民美術の文化が盛んな上田は、よりその考え方が受け入れられやすかったんじゃないかな。

− 酸塊窯の作品は工房・オンラインショップ以外ではどこで買えますか?

− 渡辺さん:上田市では柳町の「スタジオ ケイナ」さん、諏訪市の「くらすわ」さん、松本市の雑貨店「ピノリブロ」さんに作品を置かせていただいています。
東御市の御菓子処「花岡」がオープンする際、併設の喫茶店で使用するティーカップやケーキ皿の制作を担当させていただきました。花岡でお茶をしたことがきっかけで、工房を訪ねてお皿を購入してくださった方もいますよ。

当時知り合った作家さんたちとは約10年後にくるくるくるみ展を共催して、お互いに良い刺激をもらっています。展覧会で使用する敷物や棚なども作りあったり。まさに「共存共栄」っていう感じです。

− 今後の活動への意気込みなどお願いします。
− 渡辺さん:主に出品しているのは、40年間美大の先輩2人と共催している「土と布のぬくもり展」と、今年で13回目を迎えた「くるくるくるみ展」(※2023年は9/15〜19で現在は終了。)
主にこの二つに向けてコツコツ作品を作っています。
「土と布のぬくもり展」は2021年から東京 神宮前にある「GALLERY HIPPO(ギャラリー ヒッポ)で開催しています。(※2023年は11/21〜26で現在は終了)
・・・あとは三女の子育てがひと段落したら、親子展をやっていけたらいいな♡

 

「ヒッポ」は「カバ」を意味する英語「hippopotamus(ヒポポタマス)」から。
その名の通りカバを愛する方が集まる場。
渡辺さんも影響を受け、今では工房に小さな「ヒッポコーナー」が出現している。

 

 

三女の悠子(ゆうこ)さんも陶磁作家。
白を基調とした花瓶やオブジェなどを制作されており、今年のくるくるくるみ展にも参加。(写真は冬羽のライチョウのオブジェ)
余談だが白くてまん丸なものに、筆者は昔から弱い。本当に弱い。でもそれでいいのだ。

 

今回は磁器作家の渡辺由理子さんの工房・自宅にお邪魔しました。
渡辺さんの「生み出したものは何でも、人に見てもらえなければ始まらない」という言葉が特に印象に残りました。取材後、自宅で渡辺さんのお皿を使って食事をしたのですが、不思議と趣が増したように感じました。お気に入りは「暮らし」を変え、時には「人生」を変える力があるのかもしれませんね。
筆者もこれから自分にしか書けない文章で、上田市をホッと明るくできるようなひと・もの・ことを紹介していきたいと思います!

これからも親子展などなど、渡辺さんのご活躍が楽しみです!
興味のある方は是非お問い合わせを。

工房情報:〒386−2204 上田市菅平高原1223−1827
TEL:0268−74−2535 営業時間10:00〜17:00 ・不定休
E-mail:sugurigama@sugadaira.ne.jp
※お越しの際は事前に要連絡。

 

作品、ココでも買えます!(2023.11月現在)
・スタジオケイナ…上田市中央4丁目8−4 TEL:0268−26−4525
・くらすわ諏訪本店…諏訪市湖岸通り3丁目1−30 TEL:0266−52−9639(代表)
・Pino Libro(ピノリブロ)…松本市大手4−3縄手通り内 TEL:0263−41−0234
・酸塊窯 オンラインショップ http://suguri.handcrafted.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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